オペの前にわたしは、執刀医に質問した。
「先生は、大型犬の執刀経験はどの程度あるんですか?」と、予期せぬ質問だったのか、K医師は不思議な表情をした(気がした)が、答えてくれた。
「このグループの病院の沖縄本島中部で、大型犬の執刀はおそらく私が一番多いです。
「胃を開けるんですから、ついでに胃を固定してもらえますか?」と率直にお願いしてみた。
「はい、せっかくですから固定しましょう」と快諾。
私の心中が少しだけ、楽になった。
らーは、予期せぬ事故で、全身麻酔で胃を切ることになったけれど、ただでは転ばない、胃を固定してもらうオマケがつく、無事に元気になればこれまでわたしが最も恐れていた、胃捻転はもう脅威ではなくなるんだ。
「喉の下にあるイボもついでに切り取ってください、爪もきれいにしてあげてください」せっかくの全身麻酔を無駄にしたくない。
そこからは、先生とお話しながら、らーの腕の毛をバリカンでそり落として、鎮静剤様に点滴チューブを固定、目の前で鎮静剤が入っていく、座っていたらーくんが、一瞬で目を閉じてすーっと倒れた(K医師が支えていた)。(らー、ごめん、本当に、ごめん)
男性の獣医師3名が支えて、手術台へ運ぶ。
ガラスの向こうから、らーがお腹を出して手術台の上に固定されるのを見ていた。
丁寧にお腹の毛をそり落として、洗浄、そのうえ、茶色い液体できれいに消毒が施された。
それから、開腹、メスが入ったところで、ナースが私のところへやってきて「控室がありますのでそちらでお休みください」という。
睨むように医師たちを見ているわたしが威圧的だったのか、追い出された感じだった。
一人で、静かに控室でオペが終わるの待つ間、夜間の急患が運ばれてくるのを、ぼーっと眺めていた。
どれくらいの時間が経っただろうか、K医師に呼ばれて、らーが回復を待つ入院部屋に呼ばれた。
「ここから、麻酔が覚めると強い痛みを感じます。充分に痛いことをわからせます。そのあとに、痛み止めを打ちますので、辛ければ見てなくてもいいんです、どうしますか?」
「僕にとっても、この時間が一番、つらいんです」
わたしは、躊躇せずに「ここにいます」と答えた。
K医師の宣告通り、らーは麻酔から覚めて自分の体のキズの痛みを認識して呼吸が辛そう。
痛そう、絶望している、苦しそう、見ていると胸が痛い、苦しい、わたしも痛い。
「先生、もういいんじゃないですか?」冷静に聞こえるように先生に痛み止めを促した。
「そうですね、もういいでしょう」と言うと同時に、先生がらーに痛み止めを打ってくれた。
そして「これから1時間だけここにいてくれていいですが、その後はお引き取りください、明日また面会できる時間に来てくれたら会えますから」と。
この苦しみをわたしも引き受けたい、ずっと一緒に苦しみたいと思ったけど、1時間が過ぎてまた追い出された。
わたしは家に帰って寝るけれど、らーはここで苦しい時間を過ごすんだ。
そう思いながら帰宅した。