らーは、頑固な犬だった。
思えば仔犬のころから他のワンコに比べると、頑固な性格で何をするにも、同意を得なくてはならないような子だった。
だけど、ここで書きたい話は、恐らく性格が頑固であるからではなくて、老齢になると新しいことを受け入れる力が衰える、という話。
らーはドライブが大好きだった、クルマで遠出をすると楽しそうに見えたし、クルマに積んだバリケンも安全で好きな場所のようだった。
愛車は、後部座席をすべてたたみ、超大型用700サイズのバリケンを積んでいた。
仔犬のころからバリケンに入ってきたので、病院でもホテルでも、ケージに入ってもらうのに苦労することはなかった。
(ここでは省くけど、一晩ずっとケンネルで寝てもらうには、トレーニングが必要だった)
若い頃は海に山に、毎週末何かしらの遊びをしていたので、ときにはアジリティーのようにトンネルを通りぬけてみたり、スロープを渡ってみたり、そういうことも果敢に挑戦して楽しむような犬だった。
老齢になってもドライブは好きだったのだが、バリケンの入り口に足を引っかけてしまい、躓く(つまづく)ことが多くなったので、わたしはバリケンを取り払い、らーには犬用のシートベルをしてもらおうと考えた。
同時に、もっと衰えたときのことも考えて、兄にらーが乗ってもびくともしないしっかりしたステップを作ってもらった。
計画通り、実家にステップを受け取りにいき、バリケンは実家にあずけてきた。
(私の部屋は広くないので、使わないバリケンは実家に置いてもらうことにした)
そして、早速、らーにバリケンのないクルマ&ステップを見てもらった!
結果は、撃沈。
らーは、バリケンがないクルマを見た途端に明らかに戸惑い、ステップには前足さえも置いてはくれなかった。
オヤツ作戦、わたしが乗り込んで呼ぶ、友達ワンコと一緒に乗る、いろいろ試したけれど、どれもこれも、らーの機嫌を逆に悪くするような結果になった気がした。
ステップも、バリケンなしの後部座席も、らーにとっては新しいことで、老齢になって受け入れるのは無理なんだと思えた。
その日、片道1時間程度の実家へ再び戻ってバリケンを積みなおして帰宅した。
その途中、わたしは母のことを考えていた。
わたしの母も、家族全員を困らせるほどのピッキーで、歯磨き粉の種類が違う、石鹸がいつものものと違う、新しいパジャマのボタンが嫌だ、この下着のここが体のここに当たって気持ちが悪い、、、これじゃナイ!!元に戻して!!と言い張る人なのだ。
今日も母はナーシングホームでスタッフを困らせていると思う。
らーが、老齢になってケージがないクルマを認めないことで、わたしは母のわがまま(と思っていた)に、怒ったりしたこと、わたしが悪かった、と反省したのだった。
らー坊、出ておいで・・・ |