Sunday, June 28, 2020

友人のリクエストで絵本用に書いてみた

大きくてやさしい黒い犬のはなし

らーくん


それは、ほんの少し前のことです。
くまさんのような、大きな犬のお話です。

とつぜんですが、♪森のくまさん♪ という歌を知っていますか? 歌の中で、お嬢さんが森を歩いていると、くまさんに出会います。
 
想像してみてください、森の中で突然、くまさんに出会ったらびっくりですね!
でも、歌の中のお嬢さんは、くまさんとすぐに仲良しになりました。 くまさんは、見るからにやさしそうで、楽しそうだった。だからお嬢さんは、くまさんに出会っても、怖くなかったのだと思います。

さて、この物語の主人公、大きくてやさしい黒い犬も、森のくまさんのように、みるからにやさしそうな犬でした。
 
犬のなまえは、らーくんです。
犬種は、ニューファンドランドです。

カナダの東にあるニューファンドランド島、お魚がいっぱいとれる漁師さんの島、そこが、らーくんのご先祖様が生まれた場所。
そこからやってきた犬だから、ニューファンドランド犬とよばれるようになったそうです。
ニューファンドランド犬は、漁師さんと一緒に船に乗り、凍り付く冷たい海に飛び込んで漁のお手伝いをしたと言われています。
そんなご先祖様をもつ、らーくんですから、泳ぎが得意、お水が大好きでしかたがありません。
子犬のころは、飲み水が入った大きなボウルに、手をつっこんで、バシャバシャと家じゅう水びたしにして遊んだり、お家の人がおトイレを流す音を聞いたら、走ってトイレにかけつけて、もっと流してと何度も催促しました。
 
はじめて海にいったとき、らーくんはためらうこともなく、まっすぐ海に向かい、ばしゃばしゃと泳ぎだしました。
いくら泳ぎが上手な犬でも、らーくんはまだまだ子犬です。
飼い主さんは慌てて、らーくん、らーくんと力の限り戻っておいで!!と叫びましたが、らーくんはスイスイと自由気ままに泳いでいきました。
いっぱい泳いで、砂浜に戻ったら~くんは、目をきらきらさせて「母ちゃん、ぼくもっともっと泳ぎたい」そう言って、全身をブルブルブルルっと振るわせて、飼い主さんまで水浸しになってしまったそうです。
 
さて、泳ぎが得意で、海ではカッコイイらーくんですが、寒いカナダの犬ですから、らーくんは、暑いのがとっても苦手です。
ですが、なんと、らーくんは沖縄で生まれ育ったのです。
沖縄は、4月ごろから夏のように暑くなり、11月になってやっと涼しくなるような、南国なのです。 

らーくんの毎日を紹介しましょう。
らーくんは、飼い主の母ちゃんと二人家族です。
らーくんは、朝5時ごろ起きて、そっ~と母ちゃんの顔を見ます。
お腹がぺこぺこなので、母ちゃんに起きてほしいのですが、じっとがまん、寝ている母ちゃんを起こさないように、水を飲んだりします。 
バクバクバク、静かに飲んでいても、母ちゃんが気が付いて起きてきます。
 
朝一番は、お庭に出て、二人で大っきく深呼吸!
太陽が出て、アスファルトが熱くなる前に、二人でお散歩に出かけます。
お家に戻ったら、母ちゃんがらーくんの脚や身体を、きれいなタオルで拭いて、毛にブラシをかけてツヤツヤにします。

それから、らーくんの大好きな朝ご飯です! 
らーくんは、お肉、たまご、お魚、お野菜、くだもの、ヨーグルトなんでも大好きです。
でも一番好きなのは、母ちゃんが犬のらーくんのためにつくる自家製のパン。
お塩を少なくしてつくったパンを、たまごと牛乳につけてフライパンで焼いた、フレンチトーストが絶品です。
ほんのり焦げたバターのにおいがしたら、それはフレンチトースト!!
らーくんはうれしくて、キッチンで待っています。
母ちゃんは、ハチミツたっぷり、らーくんは、ハチミツがないのが好き。
ふたりで朝ご飯をたっぷり食べます。
 
それから、母ちゃんは会社へ出かけ、らーくんはお留守番がお仕事です。
夏の沖縄は、カミナリがゴロゴロなり、お空がまたたくまに暗くなり、ザザザーと大雨が降る日が多くなります。
らーくんは、カミナリが怖いので、お留守番のときカミナリがなると、大きな体を小さなシャワールームに押し込んで隠れてすごします。
「ぼくはいませんよ」 
じーっとしていたら、うとうと、眠くなって、いつの間にか、ぐがーぐがー、ぐがーぐがー、と大きないびきを響かせて寝てしまうのでした。
 
母ちゃんが、仕事から戻ると、オヤツをもって二人でお外へ出かけます。
夕方になっても、アスファルトはとっても熱いので、母ちゃんが運転する車に乗って、二人でビーチや公園にでかけます。
ビーチに行けば、夕日をみながら、らーくんはザップ~~~んと海にむかってまっしぐら。
公園に行けば、お友達がいっぱいで、らーくんは挨拶に大忙し、子供たちまで集まってきますから、母ちゃんもオシャベリに大忙しです。
 
いつまでも遊んでいたいけど、日が暮れるとお腹もペコペコです。
お家に帰って母ちゃんが大急ぎで晩ご飯の支度をします。
らーくんも忙しい母ちゃんの足元にふせて、クンクンと晩ご飯のお肉が焼ける香ばしいにおいをかいでいます。
台所仕事をするとき、母ちゃんはいつも鼻歌を歌います。

おりこうねっ、ら〜くん
ら〜くん、ら〜くん
 
いい子だねっ、 ら〜くん
ら〜くん ら〜くん
 
これは、らーくんが赤ん坊のときに子守歌として母ちゃんが自分で作った歌。
 
母ちゃんはお仕事もある、お家にいれば料理も洗濯も、お掃除も、らーくんのお手伝いも、なんだってやるのです。
母ちゃんはとっても手際がよくて、あっという間に料理も作ります。
 
晩ご飯を食べらたら寝る前のオヤツ、らーくんはリンゴが好き。
しゃりしゃりかじりついて、食べ終わると寝てしまいます。
 
リビングの床にゴロリーン、うとうとしているらーくんを母ちゃんが、温かいタオルで拭いてキレイにします。
歯みがきも、寝ている間に、母ちゃんが磨いてしまいます。
母ちゃんは魔法使いのようだな・・・
(魔法使い母ちゃんのホウキに乗って夜空を駆け巡る夢をみていました)
 
らーくんと母ちゃんは、毎日たのしく平和に暮らしましたが、時々事件がおきました。
あるとき、らーくんのお耳や背中、足の裏、あちこち痒くなりました。
ブルブル、しゃかしゃか、全身を震わせても痒みがとれません。
カイカイ、カイカイ、カイカイ、カイイイイイイイイイイイ !!!!!!
 
母ちゃんが、らーくんの背中の毛をかき分けてみたら、小さなゴマ粒のような黒いものが動いています。
これは、ダニというもので、草からピョンと犬に飛び乗って、犬の皮膚にかみつくのです。
目を凝らすと、この小さな小さな黒いゴマ粒が、らーくんの背中、耳の裏、足の裏、あちこちにいるのです!
さ~~~~大変、母ちゃんは、メガネをかけて、必死になってらーくんにとりついた、小さなダニに、薬を一滴一滴、垂らしながら取り除きます。
普段は、”虫も生きているのだから、逃がしてあげましょう~” なんて言う母ちゃんですが、らーくんを苦しめるダニには、まったく容赦しませんでした。

「らーくんにかみつくなら、私が成敗してやるぞ、絶対に許さぬぞ!!おのれ~皆殺しにしてやるワイっ」と、怒りながらダニを退治しました。
 
またあるとき、いつものように、らーくんは母ちゃんが投げたオモチャを泳いで持ってくる遊びをしていました。
”ソーレー! Go-get-it!!!” らーくんは、おもちゃに向かって泳ぎ出しました。そのときです、おもちゃのずっと向こう側から、人間のにおいがしました。

なんだろ~、おかしいな、人がいるのかな?、、、らーくんはぐんぐん、においがした方向に進みます。

砂浜で見ていた母ちゃんには、何が何だかわかりません。 
オモチャを通り過ぎて、どんどん遠くへ泳ぐらーくんの背中を見て、すこし心配になりました。
ら〜くん、おもちゃの場所がわからないのかな、、、あれ、、どんどん遠くへいいくぞ、、、らーくん大丈夫かな・・・。
すると、らーくんの頭が波間に見え隠れ、そして時々、水の中にズッポリ沈んでいるように見えました。

母ちゃんは、真っ青になりました。

大変だ、らーくんがおぼれている!!
ら~~~~く~~~~~ん、戻っておいで!!!
ら~~~~~~~~、大きな声で叫びますがらーくんはもっと向こう側へ進みます。
 
母ちゃんは、泣きながら思いました。
らーくんはもう、戻ってこれないかもしれない。
誰か助けて、わたしのらーくんを助けて!!!
消防隊員に電話をして助けてもらおう!そう思ったとき、らーくんがクルリと振り返り、こちらへ戻ってきます。
途中、きいろのオモチャを拾って、こちらへもどってきます。
母ちゃんは、泣きながら、らーくんにしがみつきました。
 
危ないよ、らーくん!!
そう言っていると、ジョボジョボジョボ、海から黒いダイビングスーツを着た男の人が現れました。
そして、ゴーグルを外しながら、きみか!!僕の頭をぽんぽんたたいたね、きみはなんて大きな犬なんだ。。。
そういって、らーくんの頭をぽんぽんとたたきました。
らーくんは、水の中のダイバーさんが呼吸をした息がかすかに水の上に漂うのをキャッチしていたのでした。
 
それにしても、森の中でもびっくりするのに。。。
くまさんのような大きな犬が、海の中に現れたのです。
ダイバーさん、びっくりしたでしょうね。


お天気がいいお休みの日、月に一度、母ちゃんと車に乗って、遠くのおじいちゃんとおばあちゃんを訪ねるのも楽しい思い出です。
おばあちゃんは、らーくんが可愛くて仕方ありません。
いつも、バナナ、ヨーグルト、パン、ヤクルト、美味しいものを用意して待っています。
おじいちゃんもおばあちゃんも、らーくんの頭を撫でて、いいこ、いいこ、りっぱなこ、いい犬、らーはいい犬だね、そうやって褒めました。

そしてお正月でもないのに、お年玉をくれました。
「お肉をいっぱい食べさせてね」 お年玉ぶくろには、そう書いてありました。

らーくんは、ご近所でも人気者でした。 
らーくんが歩くと、高校生のお嬢さん方が一緒に写真を撮りたがりました。
車を運転する人も、車を止めて挨拶してくれました。 
ご近所さんが、らーくんにゆで卵を持ってきてくれることもありました。
リンゴが好きだと話たら、八百屋さんがリンゴがいっぱい入った箱を玄関にそっと置いてくれたこともありました。

らーくんと母ちゃんに会うために、飛行機に乗って遠くから、来てくれるお友達もいました。にぎやかな街のカフェテリアに行くと、カフェのお客さんが、かわるがわるらーくんに挨拶そして写真を撮ってくれました。らーくんは、みんなのことが大好きでした。


らーくんと母ちゃんの毎日は、ゆかいで、美味しくて、嬉しくて、母ちゃんはとっても幸せでした。

そんな日々を何年も過ごして、ラーくんは12歳になりました。
12歳というと、人間は小学校6年生? 一方、犬のらーくんにとって12歳は、おじいさんです。それも、とってもご長寿さんのおじいさんです。

おじいさんになった、らーくんは、もう海で泳ぐことも、山でハイキングをすることもありません。
母ちゃんが用意してくれたふかふかのカウチで、音楽を聴きながら寝転んでいたり、母ちゃんのベッドでお昼寝したり、すっかりカウチポテトになりました。
お年寄りになっても、母ちゃんが作るごはんや、オヤツが大好きで、おなかいっぱい食べて、音楽を聴いて寝転がる、そんな平和な毎日を楽しんでいました。
らーくんの柔らかいフサフサのコートにブラシをかけて、マッサージをして過ごす時間が、母ちゃんも大好きでした。


そんなある日、母ちゃんが仕事から帰ったら、らーくんは動けなくなっていました。
背中の骨が弱くなり、大きな身体を支えることができなくなったのです。
らーくんは立ち上がることも座ることも、一人でゴロリと転がることも、もうできなくなったのです。

母ちゃんは、昼間はお仕事に行くのですから、動けないらーくんにお水を飲ませたり、背中が熱くならないようにマッサージをしたりするペットシッターさんが来てくれることになりました。

シッターさんは、優しくて、らーくんにいっぱいお話をしてくれました。
オヤツパックンゲームをしてくれました。
背中が痛くないように、整体師さんも来てくれました。
整体師さんは、なんどもなんども来てくれて、らーくんの全身を治療しました。
整体師さんの治療のおかげで、らーくんは、自分であっちむいたり、こっちむいたり、ゴロリンと転がることができるようになりました。
でも、もう、座ることはできません。

たくさんの人がが応援に来てくれました。 
ご近所のめぐさんは、朝一番の寝返りをお手伝いしてくれました。
母ちゃんにご飯の差し入れを持ってきてくれました。
母ちゃんの同僚も当番を決めて、助けに来てくれました。 
お買い物、お洗濯、らーくんの寝返り、らーくんのベッドメーキング、みんなでやればなんでも楽しくできました。
病院に行くときは、らーくんを車に乗せるため、ご近所さんがいっぱい手伝いに来てくれました。

寝たきりになっても、らーくんは、みんなに囲まれて過ごす時間が、大好きでした。
みんなは、オヤツや大好きなノンアルコールビールを持ってきてくれる、何よりもみんならーくんを励まして撫でてくれます。

本当のことをいうと、らーくんが寝たきりになった最初の何日か、らーくんは痛くてご飯を食べることができませんでした。
痛くて、動けなくて、悲しくて、とっても辛かったに決まってます。
それでも、お注射も、苦いお薬も、頑張って我慢してくれました。
らーくんはとっても頑張りました。

母ちゃんも、最初は、悲しくて、涙がいっぱい出ましたが、負けないぞ、がんばるぞ、毎日心に誓うことが日課になりました。
がんばるぞ!負けないぞ! そう思って過ごした毎日、今思うと、そんな頑張った毎日は、かあちゃんの宝の思い出なのです。

寝たきりになったとき、らーくんを応援するみんながサプライズのプレゼントをくれました。もう二度と行くことができないとあきらめていた、海遊びにみんなが連れていってくれたのです。

らーくんは、みんなに支えてもらってプカプカと、きらきら輝く海に、浮かべてもらったのです。若くて、元気だったころ、思い切り泳いだ海、美しい海に再び帰ったとき、らーくんと母ちゃんはとても幸せな気持ちになりました。


最後に、らーくんのお別れのときのことをお話しますね。

らーくんが旅立つ1週間前のこと、おじいちゃんが病院で亡くなりました。
おじいちゃんが亡くる前の日の朝、らーくんも突然、顔が腫れてきて息が苦しくなりました。おじいちゃんとらーくん、離れていても、二人で苦しい時を分け合ったのかもしれません。

顔が腫れて、息も苦しかったらーくんですが、翌日おじいちゃんが亡くなったときから、腫れた顔がみるみるよくなって、ごはんもたべれるようになりました。
まるで、おじいちゃんが、らーくんの痛みを、取り去ってくれたかのようでした。
痛くなくなったとき、らーくんは生まれて初めてチーズバーガーを食べて、とっても美味しいと感じました。

なんだかミラクル、そう奇跡のような話ですね。
ですが、さらにミラクルは続きます。

らーくんの顔が腫れた日の朝、なつかしい友達・まりちゃんが、長い旅の休憩で沖縄に戻ってきたのです。そして、らーくんのお別れの日まで、まりちゃんファミリーが、毎日らーくんを守ってくれました。

まりちゃんファミリーの娘さんは、人間の看護師さんで、注射だって得意なのですから、とっても頼もしくて助かりました。

おじいちゃんのお通夜、お葬式、母ちゃんは毎日大忙しですが、まりちゃんファミリーがいるので心配ありませんでした。
らーくんは、母ちゃんの留守の間、まりちゃんファミリーとチーズバーガーをいっぱい食べて、にぎやかに楽しく過ごしました。

お別れの朝、らーくんは母ちゃんが作ったおかゆを少しだけ食べて、また寝てしまいました。
とってもつかれているようだと母ちゃんは思いました。
それから、らーくんのお薬をもらいに母ちゃんは出かけました。
まりちゃんファミリーの娘さんにマッサージをしてもらいながら、スヤスヤと寝ていたらーくんは、いつのまにか旅だっていたのです。
おじいちゃんが、先に旅立って、らーくんの痛みを取り去って、さらに、おじいちゃんがらーくんを迎えに来てくれたのかもしれません。
らーくんは、もう二度と起きてはくれませんでした。

らーくんの旅立ちを知って、母ちゃんはお家に戻ってきました。
そして、らーくんが食べ残したチーズバーガーを食べて、母ちゃんはまりちゃんファミリーと思い出話をいっぱいしました。
お友達も次から次に、大勢きてくれました。
お花、オヤツ、ビール、わんさか集まって、らーくんのお骨の前はとっても賑やかでした。

大きなやさしい犬、らーくん。
死んだらどこにいくんだろう? 

母ちゃんは、小さなツボに入ったお骨を見ながら、らーくんが、どこにいったのか考えていました。死んだら、犬はどこにいくんだろう・・・虹の橋がある丘で、友達や兄妹たちと遊んでいるのかな?おじいちゃんと、遊んでいるのかな?

毎日考えて、母ちゃんはやっと気が付いたのです。
らーくんは、どこにもいっていない。
毎日、毎日、いまでも母ちゃんのそばにいる。
声は聞こえない、らーくんの黒いフサフサの毛に触れない、らーくんの姿は見えない、でもいつも母ちゃんのそばにいる。
だって母ちゃんは、いつも、そこかしこにらーくんの気配を感じるのです。

きらきらまぶしい太陽
青い空
もくもくの白い雲
らーくんが大好きな大きな海
らーくんが好きだった母ちゃんのクルマ
道端のお花
そよそよ気持ちがいい風
風になびく木々
沈む夕日
バターのかおりのフレンチトースト

そう、母ちゃんがみるすべてのものを、らーくんも一緒に見て感じている。
母ちゃんはそう思うようになりました。
だから、母ちゃんは今でも毎日、らーくんと一緒に過ごしています。

August 2011
らーくん海へ August 2011 


おわり